板祐生の収集は、多能趣味の人たちとの交流の中から寄贈を受けるというものでした。収集家というのは通常「お金持ち」の行うものですが、そのお金が祐生にはありませんでした。あるのは、向学心と強烈な好奇心でした。祐生の交流は、自らの所信を伝えるところから始まります。祐生の書簡文は相手の心を動かす文章力がありました。高等小学校(現代の中学2年)までしか学校で学んでいない祐生がなぜにこれほどな作文力があったかというと、まさに向学心と言うほかはありません。毎月5~10冊の雑誌を購入しており、独学によって教養を高めていました。書簡文には伝えたい要点が簡潔に述べられ、語彙力を備えた文章は相手の心を動かすのに十分でした。これによって信頼関係を築いた交流は継続性がありました。しかし、祐生の最大の弱点は、経済力でしたが、物を送ってくれる相手は社会的な地位のある人とか、経済的に豊かな人であり、この人たちの心を満足させるものはお金ではなかったのです。この人たちの関心は、オリジナルなもので珍蔵品となるものであった。東京の道楽の人々との交流でこのことを察知した祐生は、物をいただいたお礼にガリ版を活用した孔版画を思い立ち、趣味道楽の人たちから評価してもらえるまでに工夫し精進を重ねました。
現在開催中の「よみがえる掛軸」で展示中の巌谷小波、長谷川可同、福井天章(大山寺)、中原南天棒(妙心寺)、竹田黙雷(建仁寺)、中島菜刀、蔵王権現(三佛寺)、松本幸四郎隈取等々、は、骨董商からの購入ではなくすべて当人からいただいた物で、いかに祐生がこれら著名人との信頼関係を築いていたかが偲ばれます。
↑蔵王権現(三徳山三佛寺) | ↑昭和12年 中島菜刀 |
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祐生出会いの館 中尾慶治郎